特定失踪者問題とは

平成14年9月17日、日朝首脳会談において金正日総書記が日本人拉致を認め、翌10月拉致被害者5名が帰国した。
この帰国した5名の中に政府が拉致としていなかった曽我ひとみさんがいたため、「自分の家族も北朝鮮に拉致をされたのではないか」という申し出が警察や救う会全国協議会に殺到した。こうした拉致の可能性のある失踪者について調査するため、平成15年(2003)1月10日に設立されたのが当会である。

日本政府は令和2年5月時点で12件17名の日本人拉致を拉致被害者として認定している。しかしそれが氷山の一角であり、政府がその実態を隠していることも明らかになっている。
「特定失踪者」という言葉は「北朝鮮による拉致の可能性を排除できない失踪者」を意味し、当会発足とともに定められた。令和2年(2020)5月現在、調査会には約470名の失踪者リストがあり、警察には約900名の拉致の可能性のある失踪者のリストがある。またこれらのリストにない失踪者でも近くに身寄りがなかったり、家族が全く拉致と思わなかったりして申し出はされていないが実際は拉致されているというケースも決して少なくないと思われる。
事実、日本政府が認定している被害者の家族も、大部分は事件当時北朝鮮による拉致などとは夢にも思っていなかった。
調査会のリストには昭和20年代に遡る事例もあり、警察によって家出や自殺と断定され、捜査を打ち切られた、あるいは事実上されなかったものがほとんどである。そのため時間が経過したことによって決定的に情報が不足している。

調査会ではこれら特定失踪者について当時の様々な情報を洗い直し、拉致との関連の調査を行ってきた。その結果、全く関係のない失踪者同士が職業、学歴、失踪状況などいくつかの共通点をもっているケースが多数あることが分かっている。
また当会では国内での情報収集と同時に、脱北者や亡命者からの聞き取りなど可能な限りの手段を使って、北朝鮮での目撃情報など情報の収集を行っている。この結果、調査会では公開されている失踪者の中で令和2年(2020)5月31日時点で77名を「北朝鮮に拉致をされた可能性が高い」失踪者(いわゆる1000番台リスト)として発表している。また元々当会のリストにあった松本京子さんは政府認定となり、高敬美・剛姉弟は警察によって拉致と断定されている。

当会ではこうした国内外の情報の収集を一層活発に行っていくと同時に、北朝鮮国内にいる拉致被害者に対して、必ず救出するという日本国民の強い意思を伝えることなどを目的とした対北ラジオ放送「しおかぜ」を通し毎日呼びかけを行っている。また韓国の脱北者団体の協力を得ながら、大きな風船を飛ばして膨大な数のビラを北朝鮮国内に撒く「バルーン・プロジェクト」を行い、情報の注入と、情報提供の呼びかけを実施している(バルーン・プロジェクトは韓国が親北政権になったことにより現在中断)。
拉致被害者救出は政府だけがやればいいという問題ではない。また強制収容所など北朝鮮の重大な人権問題、核・ミサイル・麻薬・偽札といった問題全てが、北朝鮮の独裁体制のもとで起こっている国際的にも看過できない問題である。拉致被害者救出はこれらの問題の解決とも連動している。このため当会では関連する官民各種団体・個人と連携しつつ活動を続けている。